歯科ユニット「専用」装置の必要性とDr. Nano for Dentalの独自性
最近、ナノバブル(※)のシャワーヘッドなどが普及したおかげで、「装置を水道の大元(元栓直後)につけられないのか」という質問をいただくようになりました。
水道の大元に装置をつければ便利なように思えますが、それでは「各ユニット内のバイオフィルム剥離効果は得られない」、もしくは「施設内の水量が不足した場合、ユニット・治療への影響が懸念」されます。
理由を順にご説明します。
水道圧だけでキャビテーションを発生させるには、水が流れている必要がある
これらの商品も水道圧だけでナノバブルを発生させています。そのメカニズムは次の通りです。
- ナノバブルを発生させる原理はキャビテーション
- キャビテーションを発生させるには、装置内で水道水を急速に減圧することが必要
- 水道水には水道圧がかかっており、水が流れていない状況では、内部の圧力は均一になる(パスカルの法則です)
- そこで、水道水を減圧するには、「水が流れている状態で、水流を急減速させる」メカニズムを装置内に作る必要
水流を急減速させると急減圧になる仕組みは、車の急ブレーキと同じ理屈です(助手席に乗っていると想像して下さい)。
急ブレーキがかかると、体は前に飛ばされそうになり(なので、足を突っ張り)、背中はシートから離れますが、これは足側が加圧され、背中側が減圧されていることになります。
急ブレーキがかかるのは、車も水も動いているからで、止まっている状態ではブレーキを踏んでも、加圧も減圧もされません。
同じように、水道圧だけでキャビテーションを発生させるには、水が流れている必要があるのです。
キャビテーションをより効率的に発生させるには、急減速させる前に加速して、速度差を大きくします。
速度差=圧力差ですので、これが大きいほど、急減速した場合にキャビテーションが起こりやすくなるからです。
配管の口径と、流量・流速との関係
まずは簡単な式で説明します。
流速Vと流量Q、管の断面積Aとには、次の関係があります。
管の断面積Aは管の口径dに置き換えることができますので、式①は式②のように変形できます。
式②からは次のことが分かります。
A : 流速Vは管の口径dの2乗に反比例 管の口径dを1/2にすると、流速Vは4倍に上がる
B : 流量Qは管の口径dの2乗に比例 管の口径dを1/2にすると、流量Qは1/4に下がる
前章で「キャビテーションをより効率的に発生させるには、水流を急減速させる前に加速して、速度差を大きくさせる」とありましたが、流速Vを上げるには、管の口径dを小さくする必要があります(A)。
しかし、管の口径dを小さくすると、流量Qは下がってしまいます(B)。
これは、散水時と同じ現象です。ホースの先をつまむと、水が加速して遠くまで届くものの、水量は減り、反対にホースの先をつままないと、同じ流量は確保できますが、水は加速しません。
すなわち、流速Vと流量Qとには、二律背反(トレードオフ)の関係があるのです。
水道配管と歯科ユニットとの大きな違い
流量Qは1分間当たり何L流れるか(L/分)で表します。
水道の大元は、複数の蛇口を同時に開けることを考えて、一般的な住戸には40L/分が給水できる太さの管で給水しています(口径20mmの管で、規格では20Aといいます)。
例えば、洗面・シャワーでは8~15L/分、トイレは15~30L/分ですので、複数を同時に使っても、大元では合計で40L/分の範囲に収まるようになっています。
一方、歯科ユニットは、スピットン水で1L/分程度、シリンジで100mL/分、タービン、エンジン、スケーラーはさらに小流量です。
40L/分との比較では、最大1/1000にもなります。
この小流量でもキャビテーションを発生させなければいけないというのが、歯科ユニット独特の大きな課題です。
水道配管と歯科ユニットとに、流量Q=1L/分の水を流した場合の、流速Vを表1で計算します。
規格 | 管径d(mm) | 流速V (mm/分) | 必要流量 |
20A(水道規格) | 20.2mm | 3mm/分 | 40L/分 |
Dr.Nano | 数mm | 100mm/分 | 2L/分 |
このように、水道の大元に装置を取り付けた場合では、歯科ユニット単体で1L/分の水を流しても、1分間でたった3mmしか動かず、これではキャビテーションを発生させることは不可能です(止まっている状態でブレーキを踏んでも減圧されません)。
一方、Dr. Nanoはユニットの必要流量2L/分を確保しつつ、20Aの30倍以上の流速Vを発生させてから急減速することで、1L/分未満の小流量でもキャビテーションを発生させることを可能としています。
2つの矛盾する条件とリスク
水道の大元に取り付ける装置で、①40L/分の流量を確保しつつ、②1L/分未満の小流量でもキャビテーションを発生させるという2つの相反する条件を両立させることは、理論的に不可能であることがお分かりいただけたと思います。
仮に、それぞれの条件を実現しようとした場合の問題・リスクを表2にまとめます。
条件 | 結果・問題・リスク |
① 40L/分の流量を確保しようとすると: | ⦁ 1L/分未満の小流量ではキャビテーションは発生せず、歯科ユニット内のバイオフィルム剥離効果は得られない。 |
② 1L/分未満の小流量でもキャビテーションを発生させようとすると: | ⦁ 40L/分の流量が確保できなくなり、施設内で複数の蛇口を開いた場合に、水量が不足する(チョロチョロになってしまう)。 ⦁ 歯科ユニットに必要な水が供給されないリスクも考えられる。 |
②は特に要注意です(①も過大広告として問題ですが)。
例えば、診療中に、施設内でトイレ・手洗い水・洗濯洗浄水などを複数同時に大量に使用すると、歯科ユニットに必要な水量・水圧が供給されない可能性があり、ユニット・治療への影響が懸念されます(エンジン、タービンの過熱リスクなど)。
歯科ユニット専用の必要性
Dr. Nanoは、初めから理論的に矛盾する2つの条件の両立を目指し、歯科ユニット専用として設計しました。
条件の最適化を図るべく、内部構造の改良、実験を繰り返し、さらに精度1/100mmを追及する日本の超精密加工技術により、最大流量2L/分を確保しつつ、1L/分未満の小流量でもキャビテーションを発生させる製品化が実現しました。
エビデンスの通り、歯科ユニット内のバイオフィルムの剥離効果を確認しています。
但し、歯科ユニット専用とすると、どうしてもユニット毎への設置が必要となります。その点、ご理解いただければ幸いです。
Q&A
Q.装置を大元につけても、診療前や診療中に、手洗い、トイレなどを使用すれば、ユニットにもナノバブル水が給水されませんか?
A. 本管から施設内に入ってすぐに蛇口向けの配管に分岐しますので(特にヘッダー方式※の場合)、手洗い、トイレ向けの配管にはナノバブル水が供給されますが、歯科ユニット向け配管にはナノバブル水が来ません。
※ヘッダー方式:各蛇口設備での流量の変動を抑えられ、かつ漏水リスクを低減させるので、医院・クリニック(含むクリニック併用住宅)で、一般的に用いられる水道配管の工法です。
ヘッダー方式を使っていないで各蛇口の近くで分岐している場合(先分岐方式といいます)、診療中に手洗い、トイレなどを使用すると、分岐を経てユニット向け配管にも一部流れてくる可能性はあり得ますが、偶然性が高く、流れてきたとしても濃度は相当薄まってしまい、歯科ユニットのバイオフィルム剥離効果は期待できません。
やはり、歯科ユニットにナノバブル水を、継続的に安定して供給するには、歯科ユニット専用の装置を各ユニットの入口につけるのが最良ということになります。